2024年3月現時点で、野良猫を保健所に持って行き引き取りをお願いしても保健所から拒否されるケースが増えています。
昔から野良猫・野良犬は保健所に連れ込めば適切に処置してもらえると考えられていました。しかし、動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)が2019年に改正されて以降、野良猫の引き取りを保健所が拒否しやすくなったのが現状です。
今回は、なぜ保健所が野良猫の引き取りを拒否するのかの理由を解説していきます。
保健所が野良猫の引き取りを拒否するケースは実際にある
野良猫が自宅の庭に糞尿被害をもたらしている、車にキズを付ける等のなんらかの害はよく聞く話です。
これらの害を嫌がりで野良猫を捕獲器等で捕獲して保健所に持って行き保護もしくは処分してもらうことは一昔前では当たり前のように行われていました。しかし、2024年3月現在では多くの保健所が野良猫の引き取りを拒否しています。
自治体ごとに「保健所・動物愛護センターでの犬や猫の引き取り(持ち込み)」といったタイトルで、野良猫の引き取りを行っているかを確認できます(例えば、下記のようなサイトです)。
上記のように公式サイトにて「野良猫・成猫の引き取りを行わない」「野良猫・成猫の持ち込みは拒否します」と明記している自治体もあります。また、記載はないものの保健所や動物愛護センターに野良猫を持ち込んでも門前払いしてくる自治体も多いです。
保健所や動物愛護センターが野良猫を引き取るとされる根拠
自治体の動物愛護センターや保健所が「野良猫を引き取ること」を求められている条文は下記の通りです。
第三十五条 都道府県等(都道府県及び指定都市、地方自治法第二百五十二条の二十二第一項の中核市(以下「中核市」という。)その他政令で定める市(特別区を含む。以下同じ。)をいう。以下同じ。)は、犬又は猫の引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。ただし、犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、その引取りを拒否することができる。
引用:動物の愛護及び管理に関する法律
動物愛護管理法では、「犬又は猫の引き取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない」と記載があります。
この条文が長年、保健所や動物愛護センターで野良猫の引き取りを行わせる根拠として活躍していました。
2019年に動物愛護管理法が改正され野良猫の引き取り条文も変更される
動物愛護管理法によって保健所や動物愛護センターでの野良猫の引き取りが行われていましたが、動物愛護管理法が2019年に一部改訂されました。
野良猫の引き取りに関する改定内容は下記の通りです。
自治体の動物愛護センターや保健所が「野良猫を引き取ること」を求められている条文は下記の通りです。
前二項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。この場合において、第一項ただし書中「犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして」とあるのは、「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合その他の」と読み替えるものとする。
引用:動物の愛護及び管理に関する法律
上記条文の後半に「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合」という一文が、保健所などで野良猫の引き取りを拒否する新たな根拠になりつつあります。
要するに、野良猫の引き取りは行うが生活環境が損なわれる事態ではないと判断して引き取りを拒否するケースが増えていると考えてください。
この判断は保健所や動物愛護センターが勝手に解釈したもので、どのように反論しても「相談を受けていない」「実際に生活環境は損なわれていない」等とはぐらかされる可能性大です。
保健所や動物愛護センターで野良猫の引き取りを拒否する理由
上記の動物愛護管理法の条文から、保健所が野良猫の引き取りを拒否する理由を考えてみます。
まず、保健所職員がどのように野良猫の引き取りを拒否するかの断り文句ですが、おおよそ下記の通りです。
保健所は「自身の生活環境の変化」にはまず対応してくれません。
仮に誰が見てもわかるくらい著しく生活環境の変化があったとしても「こちらが認識していない」「相談を受けていない」と断られます。この「生活環境の変化」を見極める基準は保健所にあるため、いくらでも誤魔化し放題ということです。
また、飼い猫を間違って駆除してしまった場合は器物損壊罪になります。これは保健所職員にも適用される可能性があるため、保健所としても安易に駆除には手を出せない理由になっています。
動物愛護管理法に「生活環境の変化がないと引き取らない」との一文が追加されただけで、保健所に猫を引き取らない大義名分を渡したことになり、これを盾に保健所は野良猫の引き取りを行いません。
また、自治体によっては「公式サイトに掲載している」とゴリ押し拒否を行う職員がいないとも限りません。
保健所が野良猫の引き取り拒否は違法ではないの?
野良猫を保健所に持ち込んで引き取りを拒否された人は悔しいかもしれませんが、残念ながら違法行為ではありません。
保健所は「生活環境の変化がない」とゴリ押しで主張すれば条文にはなんら背いていないことになるからです。
保健所の野良猫引き取り拒否が違法でないため、「殺処分ゼロ」を目指すべく今後さらに保健所の野良猫引き取り拒否が進むだろうと考えています。
怪我をしている野良猫は引き取ってもらえる可能性あり
もし、引き渡す予定の野良猫が怪我をしていた場合、保健所はこの野良猫を引き取る義務が発生します。
第三十六条 道路、公園、広場その他の公共の場所において、疾病にかかり、若しくは負傷した犬、猫等の動物又は犬、猫等の動物の死体を発見した者は、速やかに、その所有者が判明しているときは所有者に、その所有者が判明しないときは都道府県知事等に通報するように努めなければならない。
引用:動物の愛護及び管理に関する法律
要約すると、「怪我をした野良猫を見つけた場合は都道府県等の自治体に通報しましょう」という条文です。
我々人間に通報を推奨していることから、保健所も動かざるを得ません。
ただし、保健所職員によっては「怪我をしていないかもしれない」とやはり引き取りを拒否する可能性も否定できません。
その場合は怪我をしている野良猫を通報する義務が自分たちにあることを強く説明し、もし負傷していたらどうしてくれるのか等と掛け合ってみるのをおすすめします。
余談ですが、「負傷動物の取り扱いを抜け道として、あえて捕獲した野良猫を傷つけて持ち込む者が増えるかもしれない」との議論は現在でも議会にて討論されつつあります。
飼い猫の持ち込みも引き取り拒否される
野良猫だけでなく、飼い猫の保健所持ち込みも引き取り拒否されるケースが多いです。
例えば、「野良猫と言っても引き取り拒否されるなら飼い猫と偽ってもう飼えなくなったと誤魔化そう」と考えたとしても、引き取りは叶わないケースが多いと考えてください。
飼い猫をそのまま持ち込んでも引き取り拒否される可能性が高く、大抵の場合はまずは「事前相談」という形で保健所職員などとの面談が行われます。
ここで飼い猫の終生飼養義務があるとして引き取りを断られることが多いですが、万が一やむを得ない事情だと判断された場合は、飼い猫であるかの確認や譲渡先探しの結果を聞かれた上、引き取りを行えるまでに至ります。
野良猫対策に保健所への持ち込みはほぼ不可能
今回は、保健所が野良猫の引き取りを拒否する理由を紹介しました。
保健所からしたら野良猫の引き取り拒否・持ち込み拒否は違法ではありません。そのため、条文を盾に色々な断り文句を使って野良猫の引き取りをしない自治体が多いです。
野良猫は人間の生活に明らかに害を及ぼしている、言うなれば害獣として位置づけられてもおかしくはないと個人的には思うのですが、野良猫対策を保健所に依頼しても対応してくれません。
保健所に助けてもらうのではなく、自力で野良猫対策を考える必要があります。
野良猫の対策(庭や屋根裏に侵入などの対策)はこちらの記事を参考にしてください!